2018年9月26日
| ジェスチャーと鏡文字 |
柿の木の枝先に赤トンボ
稲刈りの真っ最中です。コンバインの運転は凡夫の役目。凡婦は軽トラックに乗って、コンバインから排出されるモミの運搬を担当しています。
モミを軽トラックに排出しているときに、コンバインのエンジンは動いたままです。大きな音なので、どんなに大きな声を出したとしても、お互いの声は相手に届きません。
こんな時はジェスチャーと鏡文字の出番です。というより、主に鏡文字で意思疎通をします。人差し指を出して、大きくゆっくりとひらがなを宙に書きます。もちろん相手がわかりやすいように、左右が逆の鏡文字で。
長文はもちろん、短文も無理。簡単な単語ひとつで、言わんとすることの大体を推し量ります。すぐ通じることもあれば、なかなか通じないことも(笑)。
こんなコミニュケーション、ご家族で晩ご飯の最中にいかがですか? 新米を口に入れたところへ「おいしい?」と鏡文字で。でも、ついつい熱が入って、お味噌汁の椀に手をひっかけてひっくりかえしちゃったら、一瞬にして場が凍ってしまうかもしれませんね。
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2018年9月23日
| よーく見て |
良く見ないと玄米にモミが混じってしまいます
もみすり機というのは、ちょっと不思議な機械です。ひと目見ただけでは、この機械のなかでモミがどういう流れを経て玄米になるかを理解するのが難しいのでは、と思います。実際、説明も難しいです。
ともあれ、写真は機械の中の最終工程であり途中工程とも言えます。ゆさゆさ揺れる四角い箱の中に、もみ殻のとれた玄米やまだ取れないものが入り込んできて、それらが揺さぶられているうちに、縦方向に左側から、玄米の部分、玄米とモミの混じった部分、ほぼモミの部分の三つに分かれるのです。玄米部分は排出口に振り向けられるのですが、モミの混じった部分との境界があいまいで、ちょっと戸惑います。
お届けの玄米にもみ殻付きのものが多く混じっていたら困りますよね。等級検査でも、モミのままのものが多く入ると、2等、3等へと格下げされます。
雨の日はもちろん曇りの日でも、電球で十分明るくして、境界を見極められるようにしなければなりません。数年前からは老眼鏡(?)も必須となりました(苦笑)。
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2018年9月17日
| イナゴの訴え |
いや、そんなつもりは無いんです
道路を挟んだすぐ向こうには我が家の田んぼ。稲刈りを目前に、イナゴがやって来ました。夏頃から、イナゴは家の周囲にやって来ています。
ですが、窓ガラスに張り付いて家の中の様子を見ている(?)のは、今日が初めて。イナゴの数、すごいんですよー。
イナゴに、稲子の当て字を見たのは、数年前のことでした。名前の由来、本当なんでしょうか…。
*ガラスの向こう側には外の風景が見えますが、これはガラスに映った外の風景。実際にはガラスの向こう側は、台所なんです。
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2018年8月30日
| 季節の歩み |
夏水仙
きびしい暑さの続いた夏も、ようやく終わりを告げるところまで来ました。季節の変わり目が、その兆しの時期を過ぎ、後戻りしない地点まで来たかのような当地です。
透き通るような桃色というか薄紫と言ったら良いのか、そんな色の「夏水仙」がきれいに咲きました。花に見えるのは、実際には花ではないのだそうです。
日暮れの時刻もほんの少しずつ早まり出し、あと三週間もすれば秋の彼岸。当地でも稲刈りが始まり出す頃です。
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2018年6月1日
| 期間限定の素敵な光景 |
写真と記事題名は一致していません(^^;)
先月中頃からの代かき作業が終わったとき、田んぼにはいろんな光景が映るようになりました。青空や、そこに浮かぶ雲。あるいは朝日や夕日。そして遠くの風景です。
夜になると、それらは姿を消し、今度はぽつんぽつんと並ぶ街灯や、家の灯りです。白やオレンジのやわらかな灯りが水に映る様子は、何とも言えません。
車でちょっと行くと、老人施設の灯りもきれいに映っていました。郊外にある総合病院のたくさんの部屋の灯りが映った様子も、とてもきれいです。それぞれ、夜勤の人たちががんばっているんだろうな、夜に難しいことが起きないと良いななどと想像しながら、少しゆっくりと車を走らせたことでした。
駅のホームから電車が出て、灯りの少ない方向に走り行くのが映るのを見ると、それだけでファンタジーの世界。ファンタ爺と言ったら良いのか…。
わずかな風が水面を揺らし、そこに映ったお月さまもゆらゆら揺れて、けれどこうした光景も、苗の生長につれ、あと数日のこととなりました。
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2018年3月30日
| 少ない雪が急にいとおしくなってきて |
使いかけのろうそくで遊んでみました
ここ数日気温の高い日が続きました。田んぼの雪もあと数日で消えそうです。
あれだけ苦労させられた今年の雪も、春になると急にいとおしく思えるようになってくるから不思議です。
秋田弁の語尾に「ッコ」というのがありますが(名詞の後に付きます)、3月半ばを過ぎてからの雪は、年配の人からは「ゆぎッコ」と言われるようになることが多い気がします。無意識にそんなふうに言ってしまうのは、やっぱり雪が好きだからかもしれません。
今年の稲つくりも、少しずつ準備が始まり出しました。
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2018年3月14日
| だいぶ春めいてきました! |
11日朝の光景。こんな趣味、素敵ですねー。
昨日は最高気温が12度くらいまで上がりました。今年初めてのことかもしれません。だいぶ春めいてきました。
県内では、もうずーっと前から、積雪がゼロの地点も少なくありません。こちらはこれから猛ピッチで雪融けが進んでいきます。とは言っても、すっかり融けるのは来月に入ってからのことでしょう。
昨晩寝る前に玄関から外を見てみました。あれ、これまでとなんか違うナーと思ったのでしたが、よく考えたら、高かった雪の壁が低くなって、ご近所サンの家の二階の灯りが見えたのでした。「よく考えたら」というのが、またひとつ歳を重ねた証拠でしょう(^^;)。
お米作りの季節が、少しずつ近づいてきています!
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2017年12月24日
| 年末年始の発送につきまして |
雪の中に見つけたイチゴ栽培のハウス。実際の明かりは、もっとホッとするような温かい感じでした
今年も残るところあとわずかとなりました。
当園では、27日午後5時までいただいたご注文につきましては年内の発送をいたします。
年明けは5日より発送開始です。
28日から4日までの期間も、ご注文やお問い合わせには対応させていただきますので、どうぞよろしくお願いします。
みなさま、どうぞよい年をお迎えください。
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2017年12月11日
| 初雪が消えずに根雪に |
雪にもいろんな表情が
11月20日頃に降った初雪はなかなか消えず、どうやら根雪となりそうです。今年も稲を育ててくれた大地は、この先しばらく、雪の下でゆっくり休むことになります。
ただ白いだけの雪も、その時々でいろんな表情を見せてくれます。
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2017年11月12日
| 12月からの発送につきまして |
我が家の晩ごはんを見ていた珍客さん
当園ではこれまで、精米や発送の作業をご注文をいただいた翌日にしていましたが、12月1日より、翌々日の発送とさせていただくことにしました。
お待ちいただく日数が増え、ご不便をおかけする場合もあるかと思いますが、ご了解ご協力の程、よろしくお願いします。
なお、午前中指定、12時〜14時指定の場合は、関東、首都圏、それ以外の多くの地域で、翌々日のお届けとなるようです。上記の事情と重なり、ご注文から到着まで思いがけず長い日数を要することとなりますので、ご注意ください(日にち指定があります場合は、早めに注文いただけますよう、お願いします)。
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2017年11月4日
| 十五夜の翌日は種苗交換会 |
昨晩は十五夜。真ん丸のお月さまが、地上をこうこうと照らしていました。良い月の夜でした。
今日は一転、曇り空で、月はまったく見えません。日中も気温の上がらない、寒い一日でした。
今年、開催が140回!を重ねた「秋田県種苗交換会」に、短い時間でしたが、行ってきました。
会場内には、お米の食味を計ってくれるブースがあって、行けるときは必ず、玄米を持って行くようにしています。
今年のお米は82点!これまで80点に届きそうなことはあっても、実際に80点台に乗ったのは、たぶん初めてのことでした。係の人に、あのぅ、100点に近いお米ってどんな感じなんでしょうねと聞いてみたら、この食味計の満点は85点なんですよという答え。何年か、この場所でやってもらっていましたが、そのことを初めて知ったのでした(^^;)。安心の県内産米ぬか肥料を主とした施肥でのこの結果。ホッとしたと同時に、帰りは何だかうれしかったです。
あはは、今回はさりげなくPRしてしまいました。最後まで読んでもらえてたら良いナー。
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2017年10月24日
| あかとんぼ |
台風一過、今日はおだやかな晴れの日となりました。でも10月も下旬。当地でのこの時期の「晴れ」は、ただ単に雨が降らないというだけの、曇り空とほとんど変わらない天気だったり、朝もやがなかなか消えず、お日さまが顔を出すまでずいぶん間のある天気だったりします。幸運にも朝から晴れていたとしても、お日さまの勢いは弱々しいものになっています。「深まりゆく秋」は、同時に、どこか冬の訪れを意識せずにはいられない時季と言えます。
今日は気温はそれほど上がらなかったものの、冷たい風もそれほど吹かず、「晴れの日」としては良い方でした。
夕方近くなって、たくさんの赤とんぼが飛んでいるのを目にしました。この先、日一日と寒くなり、特に朝晩の冷え込みが厳しくなるにつれ、とんぼたちのいのちは、尽きていきます。元気なとんぼほど長生きすることでしょうが、それは同時に、仲間が少しずついなくなることなのでした。とんぼが、それをさびしいことと思うかどうかはわかりません。けれども、人間であれば何かを思うことでしょう。その逆説の物悲しさを…。そのように思えばこそ、いのちのいとおしさを強く感じるのです。田んぼやあぜに生きるいくつものいのちの尊さを、あらためて思ったことでした。
にぎやかな夏が過ぎて、季節はいつしか晩秋。しみじみ、良い季節になりました。若い時はあまり聴くことのなかった、ちあきなおみの歌。「冬隣」、「紅い花」、「紅とんぼ」、「たそがれのビギン」…。こころにしみる素敵な歌だなーと思います。あはは、お米を買ってもらおうとしている人が、こんな、何となく暗い話をしていたら、関心を持ってくれた方もためらってしまうかもしれませんね(苦笑)。お米に添える毎月の便りには、クスッとしてしまうようなことも書いているんですけど。
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2017年10月16日
| 29年産米のダブル検査、えがったナー |
今年産米も、放射性物質の検査をしました。昨年に続き、下限値は0.1ベクレルで、先日、セシウム134、137とも「検出せず」の結果報告をもらいました。本当はこれ以上に心配な核種があるのでしょうが、調べるすべがありません。とりあえず、良かったなーという思いです。
多くの方にとって、お米はいちばん食べるもの。厳しい精度で検査を受けずにはいられないゆえんです。今は「内部被ばく」に関心の無い方でも、いつかどんな形かで、あっと思う日が来るかもしれません。そんな時に、過去を振り返って、少しでも安心してもらえたら何よりと思います。
そして今日は等級検査。不順な天候続きの当地でしたが、玄米の品質は、一等米の格付けでした。収穫はいつもに比べて少なかったものの、この二つの検査の結果が、何よりの喜びとなりました。
ボンブ(ウ)ガルテンは、ずーっと二人三脚。サイトを見た親類が、せっかくだから二人で写った写真載せれば良いのにと、アドバイスしてくれました。少しは売り上げアップにつながるでしょうか(苦笑)。
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2017年10月5日
| いよいよ29年産米の発送開始です |
稲が無くなって、ホッとしたようなさびしいような
稲刈りが無事終了して、玄米の発送は7日から、白米の発送は10日から開始となります。どうぞよろしくお願いします。
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2017年9月25日
| 28年産米終売のお礼と29年産米のご案内 |
いよいよ9月も最終週。当地も収穫の秋を迎えました。おかげさまで、本日(25日)をもって、28年産米は終売となりました。ありがとうございました。
29年産米、新米のお届けは、作業が順調に進みますと、玄米は10月5日頃、白米は10日頃となる見込みです。
この秋10月より、宅配便料金が大幅に値上がりとなるため、お米の値段を以前のように送料と分けて表示することを検討中です。ご注文の際には、ご確認いただきますよう、よろしくお願いします。
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2017年8月6日
| ♪ 穂々にキスして そしてさよなら〜 |
今年も出穂の時期となりました。
春に、あきたこまちとは違う稲の苗を二坪分くらいの場所に植えてみました。一握りの玄米を種もみと同じように播き、ちゃんとした苗に育つかどうか試してみたものです。
心もとないような幼苗は、日に日に生長を続け、周りのあきたこまちと何ら変わらないようにまでなりました。
そして、こまちより一足先に出穂を迎え…。
その稲を待っていたのは、スズメたちの集中攻撃でした。籾の中にでき始めたお米の元、乳白色の汁が、スズメの大好物で、瞬く間に食べられてしまいました。あぁ、何と言ったらよいのか。
歌詞は、水越けいこの、♪ほほにキスして、そしてさよならですが、スズメたちは一度きりではなく何度でもやってきます。愛くるしい姿のスズメが、いちばん憎らしく思えるのが、この時期です(苦笑)。
それにしても、厳しい暑さの続く当地です。
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2017年7月7日
| 七夕の願い |
梅雨と言いながら、好天、暑い日が続いている当地です。今日は29度でした。
田んぼにいっぱい生えてしまった雑草…。数日前から手取りしているのですが、あまりの多さに一向にはかどりません。
草取りは少しも苦労ではないけれど、でも仲間が誰もいないというのは少々さびしいです(笑)。というか、日を追うごとに、同じ作業がはかどらなくなるのが、キツイと言えばキツイかも。この時期は田んぼの水を無くしてしまうので、 抜いた草の根っこについた泥を落とすことができず、なおいっそうはかどらなくなるのです(^^)。無農薬でもないのに、雑草がたくさん。当園では良くあることです。なかなか思うようには行きません。
夜、外に出てみたら、良い月の夜でした。暦を見たら旧の13日。十三夜の月ということになるのでしょうか。月が明るすぎて、なかなか星が見えてきません(苦笑)。
みなさまそれぞれの七夕の願いが、どうかかないますように…。
「『戦争が起きますように』、とか、『有事をあおって、武器がいっぱい売れますように』などという願いだけは、絶対にかないませんように!」
七夕飾りは無いけれど、それがこころからの願いです。
それと、「すべての子どもたちの願いが、ほんの少しでもかないますように!」
明日の予想は31度! 秋田の中でも常にトップクラスの暑い地です(^^;)。
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2017年7月1日
| 今年も後半に入りました! |
いつもお引き立ていただきましてありがとうございます。
当園で利用しています宅配会社との取扱い規約が大きく変わったことにより、7月1日からの販売形態の重量上限を25キロといたしました。どうぞよろしくお願いします。
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2017年4月10日
| 「春はあけぼの」ばかりでなく夕方も |
おとといは急な風のために中断してしまった育苗ハウスのビニール掛け作業でしたが、今日は絶好の日和となりました。通常、一日のうちで風の無いのは早朝のみ。この時間帯だけが、ビニールを被せるには最適のひと時です。
他の作業も交えながらのことだったので、すべてが終わったのは夕方近くなった頃でした。満月かなと思ったら、どうやら十四夜のようです。月を見ながらぼんやりとたたずんでいると、こころがおだやかになってきて、春はあけぼの、だけではないなーと思ってしまうのでした。街で毎日を暮らす人は、春の夕暮れをどんなふうに感じていらっしゃうのでしょうか。きっと、人それぞれでしょうね。
ビニールハウスも準備が整い、いよいよお米作りが本格化します。
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2017年3月14日
| 春は少しずつ |
遠くの風景がもやに包まれました
3月も半ばに入る頃となりました。まだ雪のある当地。今日は雪解けのもやで、遠くの風景がぼんやりとしました。もやと書きましたが、夜、ローカルニュースを見ていたら、「融雪霧」と言っていました。初めて聞いた(気のする)言葉です。
あと一ヶ月もすれば、稲は種まき目前。県内、所によっては種まきが済んでいる頃です。春の到来を待ちながら、作業はどんどん先走って進められていくことになります。
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2017年2月4日
| 2月は3月のこども |
今日の夕方近くになって、お日さまが顔を出しました。何となく3月を感じさせるような雰囲気。同じ晴れ間でも、1月のそれとはやはり違うんです。こんなひと時が、2月には時々出てくるようになります。
掌編(3)
「忙しさは少し落ち着きましたか?」
遠慮がちに尋ねた恵津子に、一瞬の間を置いて「とりあえず少しはね」と安田は答えた。田んぼから稲が無くなりさえすれば、あとはどんな仕事が続くのかなどと考えたことも無い恵津子の問いは、考えてみれば無理のないことであった。安田も何となくそう思ったからであろう。だから、とりあえずなどという言葉が出たのかもしれなかった。
「島田さんはどう? 少しは慣れた?」
そう聞き返され、恵津子は、「えぇ、でもまだわからないことだらけです」と当たり障りのない答えをして、安田の反応を待った。
「良い時に来たと思うよ」
突然聞こえた安田の言葉の真意を図りかね、「ここは素敵なところですね。自然がいっぱいの所で、毎日が清々しいです」と恵津子は言った。
「じっくり見ている余裕なんか無かったと思うけど、心和む風景があったでしょ。でもそんなのは、一年の中では、わずかな期間なんだ。これから日いちにちと寒さが増して、雪が降り始めるその日まで、時雨れる日が多くなるんだよ。晴れの日なんて、少しさ。そしていよいよ本格的な冬がやって来たら、雪の怖さをうんと思い知らされ、途方に暮れてしまうことも絶対あると思うんだ。島田さんは、ここが一番厳しくなる時期に来たことになるね。だから良い時に来たって言ったんだ。ひと冬過ごしたら、たぶん覚悟が決まる。ここでずっと暮らせそうかどうかがね。でも、雪は大変だけど、その雪に向き合いながらゆっくり考えれば良い。何かに追い立てられる心配も無いし、周りの声に惑わされる必要も無いからね」
初雪は早かったが、その後はそれほど降ることも無く、年が暮れようとしていた。
「年が明けたらいよいよ、安田さんの話してた、長い長い一月がやってきますね。でも除雪だけは任せておけって言ってもらえたから気が楽なんです」
笑いながら言った恵津子に、
「うん、それだけは心配しないでくれ。でも冬道の運転は気を付けてくれよ。あっ、また言ってしまった。これだから中年は、しつこいって言われるんだな」
安田が苦笑いしながら答えた。
多くの人がいやになるくらい長く感じられる一月ってどんなだろう。「二月は三月の子どもみたいなもの」ってどんな意味なんだろう。私も、春が来たら何倍もうれしくなるのかな。恵津子は、これまで聞いた安田の言葉を思い出しながら、とにかくいちにち一日を大事に過ごしていけばわかるかも知れないと思った。
恵津子には、決めなくてはならないことがいくつもあった。この場所で、じっくり考えよう。いまはまだわずかに白いだけのこの地に立って、そう心に決めた。
−「それぞれの旅路」−
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2017年1月30日
| 1月もあと少しとなりました |
掌編(2)
二人のやり取りに戸惑った様子でいる恵津子に気付いて、柴田は「私たち同級生なの」と言うと、あらためて安田を紹介し、そして恵津子と子どもたちを紹介した。
「島田さん、これからいろんなことで、どうしたら良いんだろうと思うことが出てくると思います。自分はもちろんのこと、役場のそれぞれの担当がいろいろ手助けさせてもらいますが、もし慣れてきたら、たいていのことは遠慮せず安田君に言ってみてください。この人のアドバイスは、少々年寄りじみたところもありますが、押しつけがましさが無い分、気が楽ですから」
安田はまだ忙しそうだった。顔合わせが済むと、それぞれは別れ、恵津子は新しい住まいへと入って行った。
その夜、子どもたちが寝入ってから、恵津子は外に出てみた。午後の、今にも降り出しそうだった空からは想像もできないくらいの満天の星空に、恵津子は思わず小さな声を上げた。すぐに中に戻り、子どもたちを起こして一緒に見ようと思ったが、ここでは急ぐ必要は無いのだと思い直し、止めた。こんなにきれいな星空なのに、明日は本当に雨が降るのかしらとも思いながら。
翌日、昼前から降り出した雨は、四日も続いた。恵津子は、子どもの学校のことや自分がこれから働くことになる職場での説明会、そして暮らしに必要なものの買い揃えなど、休む間もなく動き回った。
その足となったのは、どんなに古くても構いませんから、出所のはっきりした物をお願いできないでしょうかという、事前のやりとりで用意されていた軽自動車であった。
行く先々で、恵津子のことを知らない人たちは、稲刈りの出鼻をくじく雨について、困った天気ですねぇと挨拶代わりに話した。
車を走らせている最中に、恵津子はただ一カ所、稲が刈られた田んぼを見つけ、車を止めて降りてみた。そこには幅が広くて深い轍が何本もあり、降った雨がたくさん溜まっていた。安田さんが刈ったという田んぼだろうか。刈った跡というのはみなこんなふうなのかしら。恵津子はぼんやりと思った。
新しい地に越して来てから、瞬く間に一ヶ月が過ぎた。いつの間にか田んぼの稲はすべて刈り取られ、山間の村の風景は一変していた。気持ちがまだ落ち着かないまま毎日を過ごしていた恵津子の眼にさえ、この間の景色の変化は生き生きと見えていた。
そうして、少しずつ職場にも、子どもたちが学校にも慣れ出したと思われた、ある日の夕方、たまたま家の前にいた安田と言葉を交わす機会が訪れた。それまでも目にすることは何度もあったが、いつも忙しそうに動き回っている安田に、あらたまって声をかけて話しかけることができないまま今日まで来ていたのだった。
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2017年1月24日
| 1月のお米の便りは、恒例(?高齢)の掌編(1) |
好天の日の雪景色は良いもんです
島田恵津子が、二人の子どもとともに、荷物らしい荷物も持たないまま遠く県外の山間の村を目指したのは、九月も半ばを過ぎた頃だった。
その村がどんな所なのか、斡旋してもらえた空き家が一体どんな状態なのか、その時の恵津子ははっきりとわかってはいなかった。「必要最低限の家電製品や家具は準備済み。入居したその日から生活が始められます」という案内だけが、唯一の拠り所だった。役場担当者の「良い所ですよ。何の心配もいりません」という言葉にすがる思いで、恵津子は今やっと、住み慣れた地を後にしていた。
何度かの乗り換えを経てたどり着いた最寄り駅で、出迎えてくれたのは、柴田という中年の女性職員だった。役場に立ち寄ってひと通りの挨拶をした後、車はこれからの住まいがある集落に向かった。
道すがら、所々で現れるわずかな平地にある田んぼは、一面黄金色となり、稲の穂はどれも重そうに垂れていた。青空とともに目にするその光景は素晴らしいものだったが、いつの間にか黒い雲が押し寄せて来ていたことに気付いた時、「悪戯な雨が降るかもしれない」という、柴田のひとり言が聞こえた気がした。
空き家は想像していたより、きれいだった。家の周囲も、自分たちのために整備してくれたのだろう。雑草なども刈り払われて、まだ間もないように見えた。その様子を目の当たりにして、恵津子は少しほっとした。
思いがけないことに、柴田は始めに、斜め向かいにある家に行った。しかし、中には誰も居ないようだった。
「おかしいわねぇ。稲刈りにでも行ってしまったのかしら。ここには、中年の男性が一人で暮らしているんです。あっ、でも心配はいりませんよ。安田伸之っていう人なんですけど、至って真面目で、それでいてのんきな人ですから。何ヶ月か前までは母親が一緒だったんですが、年老いてしまってね。介護が必要となって、今は町の施設で暮らしています。良い人ですから、どうぞ安心してください」
そんな話の後、恵津子は家の中の案内を受けた。そうして、それがひと通り終わった頃、一台の車が向かいの家の前で止まった音がした時、柴田が外に飛び出し、恵津子も後に続いた。
「安田君、私、三時頃には来るからって伝えてたよね。それなのにどこに行ってたの?」
「悪い。今年頼まれた田んぼが、今の時期になってもなかなか乾けなくてさ。明日から何日か雨の予報だったから、少し早いとは思ったけど、稲刈りに行ってたんだ。昼から急に雲行きが怪しくなって来ただろ。それで何としても雨の前に終わらせてしまわなければと思って、戻ってこられなかった」
「そうだったの。だったら仕方ないね」
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2016年11月28日
| 12月からの発送につきまして |
隣りの田んぼに降りたんだったら、こっちにもおいでよー。
お付き合いをいただいているみなさまならびに、当園のお米に関心を寄せてくださったみなさまにお知らせです。
12月1日から2月28日までの期間、午後5時頃までにいただいたご注文につきましては翌日の発送となりますが、6時を過ぎてからのご注文につきましては翌々日の発送となります。
冬期間恒例(?高齢)の、冬の郵便配達業に伴い、精米などの発送準備が夜間になるためです。ご了承のほどお願いいたします。
なお、首都圏とその近郊、地方の大きな都市では、午前中や午後2時までのご指定は、翌々日の配達となるようです。夜遅くにメールをいただいて、午後2時までのご希望の場合、到着までに思いがけない日数を要する可能性があります。ご迷惑をおかけしますが、余裕を持ってご注文いただければ幸いです。
夜、静かに雪が降る中を、のんびりと精米や箱詰め作業をすることは、こころ楽しいひとときです。ご注文をお待ちしております。
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2016年11月24日
| 初冬の枯野 |
晩秋から初冬
一週間ほど前の、良い天気の日。この日は、外の仕事がいろいろやれました。
晩秋の枯野、夕刻…。カラオケの歌詞をかぶせれば良いような風景です。
ー 何だか、ムード歌謡でもやりたくなっちゃった。
ー うわぁ、おいおい、オマエなにやってるんだ! まさか、ヌードかよう(寒)?
枯野と書いていながら、実は我が家の農地。申し訳ないと思いながら手が回らず、毎年雑草だらけで過ごしている畑?です。10数年も農薬を使っていない夢の場所。前向きに考えればそう言えなくもないのですが…(苦笑)。
今朝、ほんの少し雪が積もり、季節はもう冬となりました。
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